
やる気スイッチを潜入レポート
文字通り死にもの狂いの闘いでした。
わたしは、食に関しては、フランスとイタリアしか知りません。
しかし、それら両国における料理界、料理人は日本におけるのとはまったく違います。
その違いはどこにあるのかということをひとことでは表し難いのですが、食材の違い、習慣の違い、国民性の違いなどが挙げられます。
そのうちで決定的に違うのは、店の経営者と料理人と野菜などを作っている生産者の関係が密接につながっているかどうか、ということです。
イタリアやフランスで、地方にありながらも、連日満席というような店は、腕のあるシェフがいるというだけでなく、たいがいオーナーやシェフと、その周りの生産者たちとの関係が非常に密接につながっています。
そのおかげで生産者たちが意欲を触発されて、料理人が求めるようなものを作るべく、努力をすることが多いのですが、料理人や店側も生産者たちの作ったものを手にすることによって料理の感覚を養い、それが料理の質や店そのものの雰囲気作りにまで反映されます。
このような店がたくさんあり、そのなかから有名店ができ上がってくるのです。
では、なぜ日本ではこのような生産者との関係を持てるシェフが少ないのでしょうか。
これには、さまざまな問題があると思います。
たとえば、東京で店を営業しながら、距離の離れた生産者と密接な関係を作るのは、時間面で不可能に近いという現実があります。
生産者のいる地方まで、車や電車や飛行機で行くとしても、すぐに行って帰ってこられる距離ではありません。
ましてや、生産物の出来具合をめぐってコミュニケーションを図ってくるとなれば、一日がかりになったり、泊まりになったりするわけです。
ヨーロッパのシェフのように「ちょっと行ってくるわ」と、少しの時間だけ店を抜け出すというわけにはいかないのです。
競争の厳しい東京のような土地で、しのぎを削らなければならない、さらに稼がなければならないとなれば、空けられる日はそうはありません。
店を一日閉めるだけで、ずいぶんと売上に影響しますから。
このように、この国の料理人が生産者とのコミュニケーションをとるのが難しい環境にあることについては、わたしは重、承知しています。
ただ、それができる人たちから、少しずつチャレンジをしていき、生産者だちと密接な関係を築けるよう努力を重ねていけば、そのうちかならず世間の目が地方に向くことになると思うのです。
そうなれば、場合によっては、人、がわざわざ地方まで足を運んで食事に行くという現象も起こるでしょう。
人が集まることによって需要が増え、それまでは都心部でしかできなかった商売が地方にも広がります。
都市部では困難だった本当の意味での新鮮で成熟した旬の素材を使う、高質な料理とサービスを、都市部のレストランより安い値段で提供する店も生まれてくるでしょう。
少しでも能力と余裕のある人から行動を起こしていかなければ、何も始まらないのではないでしょうか。
わたしは、ここ数ヶ月で多くの地域を回りましたが、やはり、都心部で手に入る食材と、産地で採れる最高の瞬間の食材は、まったくもって別物。
あの最高の食材を手にすれば、東京で心意気を失っている料理人だって、海外のシェフたちのように働く意欲を刺激され、料理の感覚が研ぎ澄まされるはずです。
いつも真空パックされたものしか手にしたことのない人が、そうでないものを手にしたときの驚きとでもいうのでしょうか。
そういうことが料理人の世界でも生まれてくるはずなのです。
そうすることにより、料理人自体の働き方が変わっていくでしょうし、料理人が変われば、食べ手であるお客様の態度も変わることもあるでしょう。
料理人やサービスマンの現状が、わたしの思っている通りだとしたら、東京ではこの方法で突き進む以外に道は残されていないと思います。
これまでにも書きましたが、農畜産業、漁業の実情は、危機的な状況にあります。
その一部は「悲惨」という言葉を使ってもいいほどです。
料理を作る料理人と、野菜や肉を作る生産者たちが、同じ作り手として関わり合いを持つことによって、互いに励まされ、やる気を起こし、誇りを取り戻すかもしれません。
そうなってくれれば、彼らは苦しいながらも活路を見出せるのではないか、私はそういう期待も持っているのです。
今後の料理界、そして農業や漁業のために、わたしたちには何かできるのでしょうか。
わたしは、メじゃなり、我、料理の関係者なりが、「日本が危機である、地方が危機である、我、の活動の元である食材を作ってくれている国産の生産者たちが危機である」というメッセージを正直に発しなければならないと思っています。
もし、我、が励ましてあげることが、彼らの勤労の一番の原動力となるのであれば、そこに出向いて何かを食べるなり、飲むなり、観光するなりして、我、の行動の種類と範囲を広げるべきです。
少なくとも東京の中だけで行動するのではなく、現地に足を運ぶことが多くなるでしょう。
たとえば、九州の果物が東京の百貨店で手に入るようになったからといって、東京で買うというのでは、いわば人生の華がなさすぎます。
九州まで行ってそこで食べてみるとか、日本一となったお米を食べに、観光がてら東北まで行ってみるとか、そういう熱意を持って、消費者である我、も生活を活性化させることが必要だと思います。
料理人だけ、生産者だけが動いても、何も変わりません。
海外旅行に行くだけの金銭的な余裕があるのであれば、この国のために国民がもっと動いてほしいのです。
フランスは、国内旅行が盛んな国です。
しかし、いまのように盛んになったのはこの百年くらいだと言われています。
百年ほど前に何かの拍子でホテルブームが起き、その流れで各地にレストランが誕生したわけです。
いまや、ミシュランが発行する『レッドガイド』は世界的にも有名ですが、『レッドガイド』が発行されたのもちょうどその頃。
ミシュラン単独の企てでもなければ、ホテルのラッシュだけでもなく、たまたまふたつの動きが同じ時期に発生して、そこから国内旅行ブームが巻き起こったわけです。
フランスは、昔から南北に大きな道路が通っていましたから、移動も難しい話ではなかったのでしょう。
次、とレストランが地方にでき、リョンやパリやマルセイユといった都市以外の聞いたことのないような街でも、名のあるレストランと同レベル、もしくはそれ以上のレストランができたのです。
それまでは、人っ子ひとり道を歩いていなかったような街にレストランができ、しかも連日満席という現象が起きたのです。
その流れが百年経ったいまも続いています。
このようなブームを一気に日本で作れるか。
それは、難しいかもしれません。
しかしながら、日本人というのは他の国の人に比べて、「食」に目立ってこだわる民族です。
一見「食」に対して無関心に思える若者でさえ、グルメ本を読み、このレストランに行きたい、あの缶入りラーメンがおいしいなどとしょっちゅう口にしています。
本当にこだわっているのかどうかは別として、ここまでこだわって見せるのが好きな国民は少ないのではないでしょうか。
そうであれば、日本の場合は、「食」の根本から新しい流れを作っていくしかないのではないかと思います。
できれば、そこにホテルやレストランが参加して、後押しをしてくれれば、流れが大きく変わると期待されています。
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